抄録:
 HTLV-I関連脊髄症(HAM)は慢性脊髄炎をその神経病理学的基盤として、膀胱直腸障害を伴った痙性対麻痺を主症状とする神経難病の一つである。  HAMはHTLV-I感染者の極一部にしか発症しないものの、一旦発症すれば、そのほとんどの例で進行性の病態で経過し、そのADLおよびQOLは著しく阻害される。 現在、HAM対する治療法としては副腎皮質ホルモン剤やインターフェロンーαといった免疫修飾療法が主流であるが、長期に亘る治療を必要とする本疾患においては、 その間に生じてくるこれらの薬剤の不十分な効果、副作用出現など多くの問題点を抱え、一刻も早い新しい治療法の開発が迫られている。
 HAMをHTLV-I感染症として捉えれば、その理想的な治療はHTLV-I感染細胞の体内からの排除であるが、HAM治療薬として求められていることは、1) 抗HTLV-I効果を持ち、 2) 下肢運動機能・膀胱機能の改善によってADL・QOLを向上させ且つその後の進行を阻止し、3) 長期間の使用にも耐えうる安全性が確保されている薬剤であることである。 我々はこれらの点に鑑み、HTLV-I感染細胞にアポトーシスを惹起できるポテンシャルを持つビタミンB1製剤の一つであるプロスルチアミン(アリナミン)、 および血流改善作用に加えHTLV-Iの細胞間伝播を阻害し得るポテンシャルを持つポリサルフェートの一つであるペントサンによる新しい治療法開発へ向けた取り組みを行ってきた。
 今回、HAMに対するこれらの薬剤による治療成績と今後の治療戦略について論じてみたい。