抄録:
 これまで、ピコルナウイルス科に属するカルジオウイルスはげっ歯類にのみ感染すると考えられてきた。 しかし、2007年に原因不明の発熱患者の便からカルジオウイルスが分離され、発見者の名前に因みSaffoldウイルス (SAFV)と命名された。 主に上気道炎や胃腸炎から検出され、一部無菌性髄膜炎および脳炎からも検出されている。 またその抗体保有率からは、広くヒトに浸淫していることが示されているが、SAFVのヒトに対する詳細な病原性は依然不明である。 SAFVはマウスに脱髄を引き起こすTheiler脳脊髄炎ウイルス(TMEV)と高い相同性を有し、マウス腹腔内に接種するとウイルス抗原は、 膵臓、中枢神経、心臓において検出されることが報告されている。
これらのことから、SAFVの病原性として、マウスカルジオウイルス(TMEV および 脳心筋炎ウイルス:EMCV)の場合と同様、 I型糖尿病(Insulin-dependent DM, IDDM)、脳脊髄炎、心筋炎との関係が強く疑われる。
 われわれはSAFVの神経および膵臓に対する病原性に注目し、神経疾患患者の末梢血単核球を対象にしたウイルス遺伝子の検出、 およびIDDM診断剖検例のパラフィン包埋膵臓組織切片を用いたウイルス抗原の検出を行った。  本セミナーでは、これらのデータを紹介するとともにTMEVおよびSAFVの持続感染機構に関するデータも併せて紹介したい。 これらの結果は、急性感染したSAFVの一部は持続感染へと移行し、神経および膵臓に対して病原性を発揮する可能性を示唆する。