病態分子イメージングセンター(Molecular Imaging Center of Diseases)

医学・医療技術の進歩により世界一長寿国となった現在、認知症などの神経系疾患、がん、動脈硬化・糖尿病など代謝性疾患の早期診断と進行予防が喫緊の課題となっています。これらの疾患は生体の正常機能を担う遺伝子の変異、タンパク質の変性やエネルギー物質の蓄積によることが明らかになってきています。また、画像診断、組織診断の進歩により病変部位が可視化され、病気の早期診断と経過観察が可能になっていますが、関与する因子は多様で、治療成績の向上には必ずしもつながっていません。このような状況に対応するために、平成23年度文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業に応募した「分子イメージングによる体系的病態の解明と診断治療法の開発」(平成23年~平成27年)が採択され、平成23年9月に病態分子イメージングセンターが設立されました。本研究プロジェクトは1)蛍光イメージングによる分子動態、幹細胞の同定と病態解析、2)疾患の原因候補分子の分子イメージングと探索・同定、3)診断と治療応用のための動物疾患モデルの作製に焦点を当てた全学的プロジェクトとして取り組みました。
平成25年度に枚方学舎に統合されたのを契機として、各事業推進者の研究成果を部門内、部門間の共同研究、トランスレーショナル研究に発展させるために、がん関連コンソーシアム、再生医療コンソーシアム、基礎系講座間の連携強化のための研究トークランチをスタートさせました。共同研究の実施場所として、北棟5階に臨床系綜合研究施設を設置して研究連携を推進する体制を構築しました。大学では若手研究者支援の臨床系研究医長制度、医学部に研究医養成コースを導入し、人材育成にも取り組みました。さらに、国内外の共同研究を推進した結果、本プロジェクトの研究は順調に進捗し、トップジャーナルを含め欧文雑誌に250編以上発表し、国内外の学会発表は420回を数え、外部評価委員の高い評価を受けました。病態分子イメージングセンターの活動を通じて形成された研究基盤と若手研究者の育成が、枚方学舎の新しい研究所の礎となることを祈念しています。

平成28年5月


事業概要

大学名:関西医科大学

研究組織名:病態分子イメージングセンター

研究プロジェクト名:分子イメージングによる体系的病態の解明と診断治療法の開発

研究代表者名:伊藤誠二 (関西医科大学 医学研究科先端医療学専攻 教授)

研究組織:
病態分子イメージングセンターに神経、がん、代謝の3研究部門と支援部門の研究体制を構築し、 3部門に部門統括者を配置します。部門統括者は部門内の研究を統括し、部門間の連携と調整を行い、プロジェクトの事業計画、成果報告、 予算執行等は運営会議で審議決定します。研究成果は学外の委員で構成される評価委員会の評価を受けます。
神経部門は神経可塑性・非可塑性、神経変性疾患
がん部門は組織・がん幹細胞の同定、発がん・転移機構
代謝部門は炎症、血管・組織の加齢変化、動脈硬化、糖尿病の病態解明を中心に研究を推進します。
支援部門は本プロジェクトの研究推進と若手研究者の人材育成の支援を行います。

センター長 伊藤 誠二
副センター長 上野 博夫
部門統括者 基礎医学 臨床医学
神経部門 山田 久夫 日下 博文
がん部門 藤澤 順一 友田 幸一(2011-2014)
野村 昌作(2015)
代謝部門 中邨 智之 岡崎 和一


研究施設 設備・装置
《施設》

施設の名称 整備年度 研究施設
面積
事業経費 補助金額
病態分子
イメージングセンター
平成23年度 m2
812
千円
49,552
千円
24,761
平成24年度 812 135,325 67,662

《装置・設備》

装置・設備の名称 整備年度 物品名 事業経費 補助金額
研究装置
質量顕微鏡 平成23年度 IMAGING-MS FOR
KMU
千円
76,000
千円
38,000
高度細胞機能解析
蛍光イメージングシステム
平成24年度 AMNIS社製Image
Stream System
72,000 36,000
小動物実験用マルチ
モダリティSPECT/CT
平成26年度 Inveon 75,060 -
研究設備
近赤外蛍光イメージャー
Odyssey System
平成23年度 LI-COR9201-00 7,300 4,866
HSオールインワン
蛍光顕微鏡
平成23年度 BZ-90000 13,477 8,980

《研究費》

年度 消耗品費 通信運搬費 旅費交通費 業務委託費 会合費 雑費 修繕費
平成23年度 千円
33,704
千円
72
千円
760
千円
4,157
千円
142
千円
333
千円
520
平成24年度 40,712 118 1,480 4,443 224 612 5,362
平成25年度 33,935 460 2,081 3,615 421 653 359
平成26年度 43,006 261 1,173 3,291 112 1,569 3,693
平成27年度 39,803 223 1,339 6,638 342 619 2,595
年度 支払手数料 賃貸料 福利費 人件費 教育研究用機器備品費 図書費 合計(円)
平成23年度 千円
22
千円
373
千円
0
千円
1,478
千円
12,488
千円
86
千円
54,135
平成24年度 343 0 8 1,276 27,327 63 81,968
平成25年度 342 印刷製本費 光熱水費 2,321 15,608 183 62,855
162 2,715
平成26年度 155 0 3,086 7,014 13,165 41 76,566
平成27年度 263 367 2,696 7,361 23,877 97 86,220


研究事業者と共同研究者

研究事業者
神経部門 11部門
がん部門 11部門
代謝部門 11部門

共同研究者
中畑 龍俊副所長 (京都大学iPS 細胞研究所 臨床応用研究部門)
瀬藤 光利教授 (浜松医科大学 解剖学講座 細胞生物学分野)
近江谷 克裕部門長 (産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門)


外部評価委員

外部評価委員
神経部門 Prof. Min Zhuo
(University of Toronto, Dept. of Physiology
Editor-in-chief , Molecular Brain, Molecular Pain)
がん部門 山本 雅教授
(沖縄科学技術大学院大学 細胞シグナルユニット
元東京大学医科学研究所所長 癌細胞シグナル分野)
代謝部門 Dr. John Hanover
(Lab. Chief, Cell Biochemistry and Biology, National Institute of
Diabetes and Digestive and Kidney Diseases (NIDDK), NIH, USA)


研究基盤形成と若手研究者の人材育成

 大学のキャンパス統合により、病態分子イメージングセンターは2013年3月に滝井キャンパスから枚方キャンパス北棟5階に移転した。基礎社会医学系講座、臨床系講座、一般教育の教室・研究室は中央棟の10‐12、8‐9、2階にあり、病態分子イメージングセンターには数分で行くことができる。共焦点顕微鏡、蛍光顕微鏡など従来からある多くの顕微鏡に加え、高度細胞機能解析イメージングシステム、オールインワン顕微鏡は顕微鏡室(図1左上)に配置され、多光子励起顕微鏡に加え、新たに質量顕微鏡の部屋(図1左下)が設置された。RIイメージング室は基礎研究を臨床応用するために設置され、2014年12月に小動物用SPECT/CT装置が導入された。臨床系綜合研究施設は臨床系講座が共用できる実験室で、日本の医科大学ではユニークな施設である。研究を円滑、効率的に進めるために、管理運営を支援する技師を臨床系綜合研究施設に置いた。講座の枠を超えた共同研究が促進されることを期待している。

 神経、がん、代謝の3部門の研究体制に加えて、本プロジェクト後半の到達目標である疾患横断的研究の相乗効果、基礎研究から臨床応用研究へのトランスレーショナル研究を推進するために、平成25年度から、1)がん関連コンソーシアム、2)再生医療コンソーシアム、3)研究トークランチの3つの新しい取組(図2)をスタートさせた。

 1)がん関連コンソーシアムはがん幹細胞の同定、がんの診断、治療、合併症に関する事業推進者のグループ間連携を目的としている。1. 癌診療とcancer stem cell、2. 新規抗癌剤治療薬(TKI等)に関する多科横断的研究、3. がん診療と合併症に関する研究、4. 寄附講座開講に寄与する癌研究の4つのテーマで複数の臨床系講座ならびに基礎系講座が共同で行うテーマを募集した。平成25年度は12テーマ、平成26年度は10テーマを選び、平成27年度は4テーマに絞りこんだ。この研究成果は毎年開催される学術集談会(平成26年2月14日、平成27年3月13日、平成28年3月18日)で報告された(参考資料1)。

 2)再生医療コンソーシアムは再生医療の基礎研究から臨床研究、臨床応用への橋渡しの会議を3ヶ月に1回再生医療コンソーシアム研究会を開催し、2から3の参加グループが研究紹介、討論を行った。平行して、グループ横断連携プロジェクトを募集し、それぞれ2、3のグループ横断連携プロジェクトを立ち上げた。平成26年度、27年度は「弾性線維再生技術の開発」と「乳房切除と乳房再生」などが採択され、がん関連コンソーシアムと同じくその研究成果を学術集談会で発表を行った(参考資料2)。

 3)研究トークランチは平成25年4月16日から毎月1回、第3火曜日昼食時に開催し、研究紹介、プログレスレポートを主とする基礎研究の検討会である。1回に2つの基礎社会系講座が担当して、毎回50-70名の参加者がある。第1ラウンドは、基礎社会系講座の研究紹介を事業推進者が行い、第2ランド以降は研究分担者や若手研究者のプログレスレポート、各講座で行っている実験手技の紹介を行い、講座間の意思疎通や共同研究の促進を図っている(参考資料3)。 平成25年度に文部科学省から研究医枠の医学部定員増2名が認められ、学部に研究医養成コース(参考資料4)を開設した。平成26年度から臨床系講座に講座内の研究推進、若手研究者育成・支援のために、事業推進者を補佐する研究医長制度(参考資料5)を導入した。さらに、平成27年4月に臨床研究支援センターが設置され、臨床研究、トランスレーショナル研究の推進の支援体制が作られた。

 病態イメージングセンターでは、センターの年次集会だけでなく、慶応義塾大学医学部岡野栄之教授(平成24年3月21日)と理化学研究所発生・再生科学総合研究センター故笹井芳樹グループディレクター(平成25年3月22日)の特別講演会、平成27年度には中西重忠、長田重一、高井義美、竹市雅俊博士の大学院の総合講義と協賛して開催したのを含め、この5年間で招待研究者による講演会を70回以上開催した。共同利用研究施設による機器説明会、利用説明会を大学院総合講義の中に組み込み、実施した。さらに、学内学術集談会などの研究発表会での発表を通じて若手研究者の育成を図った。

 この5年間の病態分子イメージングセンターを核とするさまざまな活動を通じて、徐々にではあるが、事業推進者が連携して共同研究、トランスレーショナル研究、臨床研究の機運が生じてきた。枚方キャンパスにできた研究基盤形成と人材育成の取り組みが新しいプログラム、研究所の基盤となると期待される。

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